【採用担当必見!】在留資格「技術・人文知識・国際業務」の概要|行政書士監修シリーズ
外国人が日本で働く場合、在留資格の取得が必要です。在留資格は36種類ありますが、その中でも「技術・人文知識・国際業務」という在留資格の就労ビザは、多くの外国人労働者が取得しています。今回は、在留資格「技術・人文知識・国際業務」を申請する場合、どのように申請をすればよいかや、どのような職種につけるのかなどを、事例も含めて解説していきます。
【目次】
- 在留資格「技術・人文知識・国際業務」の定義
- 在留資格「技人国」:技術分野で就労可能な職種
- 在留資格「技人国」:人文知識分野で就労可能な職種
- 在留資格「技人国」:国際業務分野で就労可能な職種
- 上陸のための基準
- 「技術・人文知識・国際業務」の申請に必要な書類
- 平均処理期間
- まとめ
1. 在留資格「技術・人文知識・国際業務」の定義
外国人が日本で働く場合に在留資格の取得が必要なことは、こちらの記事で詳しく解説しましたが、今回取り上げる「技術・人文知識・国際業務」という在留資格の就労ビザは、主にオフィスワーク業務をする外国人が取得することが多いです。
令和2年6月末の在留外国人数は288万5,904人ですが、このうち「技術・人文知識・国際業務」を取得しているのは、約10%の288,995人に上ります。
出典:法務省「令和2年6月末現在における在留外国人数について」
なお、在留資格「技術・人文知識・国際業務」を取得した外国人が日本に在留することができる期間は、令和2年4月現在、5年、3年、1年又は6月、3月と定められています。
出典:法務省「在留資格一覧表」
元々、「技術」と「人文知識・国際業務」に分かれていましたが、平成26年の入管法改正で、「技術・人文知識・国際業務」に一本化されました。
現在は「技術・人文知識・国際業務」のそれぞれの頭文字を取って、「技人国(ぎじんこく)」と省略されることもあります。
この在留資格の定義は、出入国管理及び難民認定法に以下のように規定されています。
「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動。」
出典:法務省:技術・人文知識・国際業務「日本において行うことができる活動内容等」
つまり、以下の業務が認められていると言えます。
- 理学、工学その他の自然科学の分野に属する、技術もしくは知識を要する業務
- 法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する、技術もしくは知識を要する業務
- 外国の文化に基盤を有する思考もしくは感受性を必要とする業務
ただ、在留資格は細かく内容がわかれているため注意が必要です。
医療、研究、教育、教授、経営・管理、芸術、報道、法律・会計業務、企業内転勤、介護、興行の項に掲ける活動の場合は、別の在留資格になります。
以下では、在留資格「技術・人文知識・国際業務」によって就ける具体的職種の事例を見ていきましょう。
2. 在留資格「技人国」:技術分野で就労可能な職種
「技術分野」で行える業務は、理学や工学、その他の自然科学の分野に関係する技術や知識を必要とする業務です。
主に大学の理系科目に相当する業務だと考えるとわかりやすいです。
具体的には、機械工学等の技術者やプログラマー、建築設計などの職種が該当します。
以下が業務事例となります。
「技術」分野の在留資格をもつ外国人の具体的な業務事例
- 本国において工学を専攻して大学を卒業し,ゲームメーカーでオンラインゲームの開発及びサポート業務等に従事した後,本邦のグループ企業のゲーム事業部門を担う法人との契約に基づき,月額約25万円の報酬を受けて,同社の次期オンラインゲームの開発案件に関するシステムの設計,総合試験及び検査等の業務に従事するもの。
- 本国において工学を専攻して大学を卒業し,ソフトウェア会社に勤務した後,本邦のソフトウェア会社との契約に基づき,月額約35万円の報酬を受けて,ソフトウェアエンジニアとしてコンピュータ関連サービスに従事するもの。
- 本国において電気通信工学を専攻して大学を卒業し,同国にある日本の電気通信設備工事業を行う会社の子会社に雇用された後,本邦にある親会社との契約に基づき,月額約24万円の報酬を受けて,コンピュータ・プログラマーとして,開発に係るソフトウェアについて顧客との仕様の調整及び仕様書の作成等の業務に従事するもの。
- 本国において機械工学を専攻して大学を卒業し,自動車メーカーで製品開発・テスト,社員指導等の業務に従事した後,本邦のコンサルティング・人材派遣等会社との契約に基づき,月額約170万円の報酬を受けて,本邦の外資系自動車メーカーに派遣されて技術開発等に係るプロジェクトマネージャーとしての業務に従事するもの。
- 本国において工学,情報処理等を専攻して大学を卒業し,証券会社等においてリスク管理業務,金利派生商品のリサーチ部門等に所属してシステム開発に従事した後,本邦の外資系証券会社との契約に基づき,月額約83万円の報酬を受けて,取引レポート,損益データベース等の構築に係る業務に従事するもの。
- 建築工学を専攻して本邦の大学を卒業し,本邦の建設会社との契約に基づき,月額約40万円の報酬を受けて,建設技術の基礎及び応用研究,国内外の建設事情調査等の業務に従事するもの。
- 社会基盤工学を専攻して本邦の大学院博士課程を修了し,同大学の生産技術研究所に勤務した後,本邦の土木・建設コンサルタント会社との契約に基づき,月額約30万円の報酬を受けて,土木及び建築における研究開発・解析・構造設計に係る業務に従事するもの。
- 本国において電気力学,工学等を専攻して大学を卒業し,輸送用機械器具製造会社に勤務した後,本邦の航空機整備会社との契約に基づき,月額約30万円の報酬を受けて,CAD及びCAEのシステム解析,テクニカルサポート及び開発業務に従事するもの。
- 電子情報学を専攻して本邦の大学院博士課程を修了し,本邦の電気通信事業会社との契約に基づき,月額約25万円の報酬を受けて,同社の研究所において情報セキュリティプロジェクトに関する業務に従事するもの。
出典:法務省「『技術・人文知識・国際業務』の在留資格の明確化等について」
3. 在留資格「技人国」:人文知識分野で就労可能な職種
「人文知識分野」で行える業務は、法律学や経済学、社会学といった、いわゆる文系科目と関わる業務です。
具体的には、営業職や経理、総務、人事などの事務職に該当する職種となります。
以下が業務事例です。
「人文知識分野」分野の在留資格をもつ外国人の具体的な業務事例
- 本国において経営学を専攻して大学を卒業し,経営コンサルタント等に従事した後,本邦のIT関連企業との契約に基づき,月額約45万円の報酬を受けて,本国のIT関連企業との業務取引等におけるコンサルタント業務に従事するもの。
- 経営学を専攻して本国の大学院修士課程を修了し本国の海運会社において,外航船の用船・運航業務に約4年間従事した後,本邦の海運会社との契約に基づき,月額約100万円の報酬を受けて,外国船舶の用船・運航業務のほか,社員の教育指導を行うなどの業務に従事するもの。
- 本国において会計学を専攻して大学を卒業し,本邦のコンピュータ関連・情報処理会社との契約に基づき,月額約25万円の報酬を受けて,同社の海外事業本部において本国の会社との貿易等に係る会計業務に従事するもの。
出典:法務省「『技術・人文知識・国際業務』の在留資格の明確化等について」
4. 在留資格「技人国」:国際業務分野で就労可能な職種
「国際業務分野」で行える業務は、外国の文化に基盤を有する思考もしくは感受性を必要とする業務です。
具体的には、翻訳や通訳、語学教師などの仕事や、デザインや芸術と関わる仕事が該当します。
以下が業務事例となります。
「国際業務分野」分野の在留資格をもつ外国人の具体的な業務事例
- 国際関係学を専攻して本邦の大学院を修了し,本邦の航空会社との契約に基づき,月額約20万円の報酬を受けて,語学を生かして空港旅客業務及び乗り入れ外国航空会社との交渉・提携業務等の業務に従事するもの。
- 本国の大学を卒業した後,本邦の語学学校との契約に基づき,月額約25万円の報酬を受けて,語学教師としての業務に従事するもの。
- 本国において経営学を専攻して大学を卒業した後,本邦の食料品・雑貨等輸入・販売会社との契約に基づき,月額約30万円の報酬を受けて,本国との取引業務における通訳・翻訳業務に従事するもの。
- 本国において経済学,国際関係学を専攻して大学を卒業し,本邦の自動車メーカーとの契約に基づき,月額約20万円の報酬を受けて,本国と日本との間のマーケティング支援業務として,市場,ユーザー,自動車輸入動向の調査実施及び自動車の販売管理・需給管理,現地販売店との連携強化等に係る業務に従事するもの。
- 経営学を専攻して本邦の大学を卒業し,本邦の航空会社との契約に基づき,月額約25万円の報酬を受けて,国際線の客室乗務員として,緊急事態対応・保安業務のほか,乗客に対する母国語,英語,日本語を使用した通訳・案内等を行い,社員研修等において語学指導などの業務に従事するもの。
出典:法務省「『技術・人文知識・国際業務』の在留資格の明確化等について」
5. 上陸のための基準
誰でもこの資格を取得できるかというと、そういうわけではなく、学歴の要件または実務経験の要件のどちらかに該当しなければなりません。
(1)学歴の要件
①大学を卒業
大学は日本と海外の大学どちらでも大丈夫です。
海外の場合、日本の教育システムとは違うこともあり、3年生の教育機関の卒業など日本の制度とは異なった学校を卒業されている方がいます。
その場合は個別に判断されるので、一度行政書士に相談することをおすすめします。
②専門学校を卒業
専門学校の場合、日本の専門学校を卒業する必要があります。
また、就職先の業務内容と学校で学んだ内容の関連性について、大学卒業の場合は広い範囲で判断されますが、専門学校の場合は狭く判断される傾向にあります。
以下では、どのような状態であれば学歴・職歴と職務内容が合致していると言えるのか、確認していきましょう。
<許可事例:大学卒>
教育機関としての大学(短大を含む)の性格を踏まえて、大学における専攻と従事しようとする業務内容との関連性は柔軟に判断されます。
※1:翻訳・通訳・語学の指導(国際業務):原則3年以上の実務経験が必要ですが、通常外国人の母国語により業務が行われるため、大学を卒業していれば実務経験は不要です。
出典:入国管理局「留学生・「技術・人文知識・国際業務」への変更許可/不許可事例」
<許可事例:専門大学卒>
※ 専門学校のコース(学科)名から専攻内容が不明瞭な場合には「成績証明書」を併せて提出し、「業務内容との関連性」を疎明します。
出典:入国管理局「留学生・「技術・人文知識・国際業務」への変更許可/不許可事例」
法務省「大学を卒業した留学生に係る事例」
(2)実務経験の要件
10年以上または3年以上の実務経験
大学や専門学校を卒業していなくてもこの在留資格を取得できる場合として、従事しようとする業務に就いて10年以上の実務経験を有していれば取得できます。
ただし、申請人が外国の文化に基礎を置く思考、又は感受性を必要とする業務(翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾にかかわるデザイン、商品開発その他これらに類似する業務)については3年以上の実務経験で大丈夫です。
(3)日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬が支払われること
外国人の雇用においても、適正な労働条件の確保が求められます。そのため、外国人が日本人と同じ業務をする場合、日本人社員と同等以上の報酬を外国人社員に払う必要があります。
厚生労働省による「外国人雇用のルールに関するパンフレット」の中では、賃金の項目に以下のように書かれています。
・最低賃金額以上の賃金を支払うとともに、基本給、割増賃金等の賃金を全額支払うこと。
・ 居住費等を賃金から控除等する場合、労使協定が必要であること。また、控除額は実費を勘案し、不当な額とならないようにすること。
よって、たとえば入国管理局の不許可事例には、「工学部出身でコンピューター関連サービスを業務内容とする企業において、13.5万円でエンジニア業務に従事する予定の外国人の申請があった。しかし、同種の業務に従事する新卒の日本人の報酬が月額18万円であることが判明したことから、報酬について日本人と同等額以上であるとは認められず、不許可になった」というものが挙げられています。
このように、外国人だからといって安い報酬で採用することは禁じられています。
(4)外国人を雇用する企業が安定していること
日本の入国管理局では、外国人を雇用する企業や個人事業主の規模や安定性などに応じて、企業を4つのカテゴリーに分けています。多くの場合、大企業などはカテゴリー1、2に当てはまり、中小企業や設立されたばかりの企業、個人などはカテゴリー3、4に当てはまります。
また、カテゴリーによって審査の仕方や提出書類が異なります。企業の経営状況が安定しているかなどを判断するために、企業側の提出書類には、前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表といった資料が含まれます。
出典:法務省「技術・人文知識・国際業務」
(5)在留中の素行が不良でないこと
日本に滞在した経歴がある場合、その間の素行も審査対象となります。また、留学生は学生ビザでできる範囲を越えるアルバイトをしていたり学校の出席率が低かったりすると、素行が不良と判断され、不許可になる可能性があります。以下に具体事例を2つあげます。
出典:入国管理局「留学生・「技術・人文知識・国際業務」への変更許可/不許可事例」
法務省「大学を卒業した留学生に係る事例」
6. 「技術・人文知識・国際業務」の申請に必要な書類
申請書類は、会社の規模や状況によって異なります。以下のサイトからぜひ申請書類の確認をしてみてください。
こちらに掲載されている書類以外のものを要求されることがありますが、その場合は必要があれば経験豊富な行政書士に相談をして進めるのも1つの方法になります。
申請書類:法務省:技術・人文知識・国際業務 (moj.go.jp)
7. 平均処理期間
海外から呼び寄せる在留資格認定証明書の申請の平均処理期間は、1ヵ月から3ヶ月と定められています。私の経験上だと、基本的には3ヶ月近くかかります。
また、途中で追加書類を求められたりすると、これ以上の時間がかかることがあるので、計画的に申請することをおすすめします。
在留資格の更新や変更の場合の平均処理期間は、2週間から1ヵ月と定められています。
ただ、基本的には1ヵ月近くかかると思った方が無難です。
これも途中で追加資料を要求されると1ヵ月以上かかってしまうこともあるので、余裕をもって申請しましょう。
ちなみに、更新の受付は満了日の3ヵ月前から受け付けています。
ただし、入院や長期の出張などの特別な事情が認められる場合は、3か月以上前から申請を受け付けることもあります。
その場合は管轄の出入国在留管理局に相談することをおすすめします。
8. まとめ
今回は在留資格の「技術・人文知識・国際業務」についてお伝えしました。
日本で就労しようとする外国人の方の多くが申請する在留資格でもあるため、今回解説させていただきました。
実際の行政書士の実務では、申請人の資格や就労業務内容などの要件該当性を証明するために、証拠書類を集めて理由書を作成したりするのですが、その辺りが行政書士の腕の見せ所だと言えます。
ご自身の会社で申請が通るかどうか分からない場合は、事前にこの分野を専門にしている行政書士に相談すると安心して申請できると思います。
また、不許可になった場合もそれで諦めずに専門家に相談をすると、再申請で許可になることもありますので、その際もご相談していただけたらと思います。
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【監修】
呉 宗俊 (くれ むねとし)
国際サポート行政書士事務所 代表行政書士
東京都行政書士会 豊島支部 所属
東京都出身。国立台湾大学 国家発展研究所 国家発展学修士 修了。2009年より公益財団法人日本台湾交流協会の台北事務所(※ 在台湾日本大使館に相当する場所)にて3年間勤務。2014年に行政書士試験に合格し、同年に国際サポート行政書士事務所を池袋に開業。外国人の在留資格(VISA)、アポスティーユ、国際相続に関する手続きなどを専門とする。中国語、台湾語、英語での対応が可能。