インバウンド市場を牽引するVpon JAPANが、「未来志向」の採用方針にこだわる理由
アジア全域を対象にビッグデータを活用したインバウンド事業を展開するVpon JAPAN株式会社。その強みのひとつは、アジア圏に特化した1億人以上の訪日観光客データを保有することです。創業以来、このデータを活用したデジタルマーケティングによって、官公庁や自治体、企業の多岐にわたる課題を解決してきました。台湾企業の日本法人として立ち上がったVpon JAPAN株式会社を率いるのは、代表取締役社長の篠原好孝さん。ハードルが高いと言われる「外資企業による日本市場への進出」を成功させている秘訣とは。そして、「未来志向」の採用方針について教えていただきました。
――Vpon JAPANの事業内容を教えてください。
篠原さん:弊社は「ニッポンと世界をつなぐ! 日本のヒト・モノ・コトで世界を元気に」というビジョンのもと、台湾、香港、中国などを中心としたアジア全域1億人のビッグデータを活用した訪日旅行者(インバウンド)特化型のデータ事業と広告事業を行っています。
データ事業では、位置情報を基本とした旅行者属性・行動経路を機械学習で解析したデータを活用して、地域(都市や県など)ごとに訪問している訪日客の人物像の分析や動向分析などによるインバウンド対策の支援を行っています。
広告事業では、ビッグデータを活用して、日本に興味を持つアジア各国のユーザーそれぞれの興味・嗜好に合わせた広告配信を行っています。
たとえば、私たちは旅マエ(海外居住地で訪日旅行を検討しているタイミング)、旅ナカ(日本旅行中に地域の情報を調べているタイミング)、旅アト(訪日旅行から自国へ帰国し、次の旅行を検討しているタイミング)という3つのフェーズに分けて、広告が表示されるユーザーのフェーズごとに最適な集客プロモーションを行うことを得意としています。
これができるのは、弊社が元々はVponという台湾最大手のモバイル向け広告配信プラットフォーム事業を展開する会社の日本法人だから。親会社が長年培ってきたビジネスの土壌と信頼、そしてデータの蓄積に支えられています。Vponグループは日本、台湾、香港、上海、シンガポール、タイに現地法人があるのですが、日本市場の規模の大きさと今後の成長可能性を踏まえて、去年本社を台湾から日本に移しました。
――篠原さんがVpon JAPANを設立するに至った経緯を教えてください。
篠原さん:私はデジタルマーケティングの仕事に長く携わっており、Vpon JAPANの立ち上げ前は外資系アドネットワークの日本法人2社で働いていました。2社目で働いている時に、前職の台湾を担当していた同期から日本市場進出を考えている人がいると紹介されたのが、Vponの代表であるVictor Wu氏でした。
彼は元々IBMのエンジニアとして働いていたのですが、2007年にイギリスで開催されたビジネスコンセストに優勝したことをきっかけに起業しました。その時のチーム名が、今の会社名である「Vpon」です。彼は当時アジア初と言われたモバイルクーポンの仕組みを開発したので、「Virtual Coupon」を略してこのチーム名を付けたそうです。
友人として何度か会ううちに日本市場進出の相談に乗るようになりました。その時に私が何度も伝えたのは、「中途半端な覚悟で参入することはやめた方がいい」ということでした。なぜなら、日本のモバイルプラットフォーム市場は成熟しているため、複数の強力な国内プレイヤーがすでに存在するからです。
また、たとえ優れたプロダクトであっても、日本人の国民性や文化への理解がなければ受け入れられません。この競争激しい市場の中で台湾の一企業が成功するには、他との大きな差別化が必要です。
そんな話をしていると、「ここまで我々の商品と日本市場のことを理解している人はいないから、ぜひ一緒に日本法人を立ち上げてくれないか」と打診されました。まさかそんな話になると思わなかったので驚きましたね。同時に、「これは面白そうだな」と思いました。
色々と考えた結果、成功を見込める戦略がひとつあったので、それを経営層に伝えて納得してもらい、2014年に私が日本法人の設立・運営を担うことが決まりました。
――その戦略とはどのようなものでしょうか。
篠原さん:「インバウンド×デジタルマーケティング」という軸に特化する戦略です。具体的には、デジタル技術を用いて、インバウンドを念頭に国内企業の台湾・中華圏向けのマーケティング支援を行うことです。実は、創業当初からこの戦略は変わっていません。
会社創業前年の2020年オリンピック・パラリンピック招致決定や、日本政府が外国人旅行客を増やすために多くの施策を打ち出したことによって、インバウンド向けマーケティングのニーズは大きく増加し、この戦略は大いに成功しました。
創業当時はインバウンド業界ではデジタルという概念が浸透しておらず、集客のイメージはハッピを着たスタッフが現地でチラシを配るようなものでした。そのため営業に行っても事業の意義を理解してもらえず、門前払いを受けることもしばしば。インバウンドにおけるデータ活用が必要とされる時代が必ず来ると確信していました。
そして、営業を続けた結果、2016、17年頃から事業が右肩上がりに成長するように。大きな要因は、2017年に日本政府観光局がデジタルマーケティング室を発足したことです。おかげで、データを活用したインバウンド施策に対する業界の風向きが好転しました。
日本政府観光局は「訪日外国人マーケティングデータベース」の構築にも取り組んでおり、弊社もアジア圏の訪日観光客データを提供する形で協力させていただいています。軸をぶらさずに継続したからこそ、今の状況があるのだと思います。
――「外資企業による日本市場への進出」は時にハードルが高いと言われますが、これを成功させるために必要なことは何だと思いますか。
篠原さん:様々な外資企業の進出と撤退を見てきましたが、重要なことは3つあると考えます。
ひとつ目は、できる限り日本法人に権限移譲をすること。日本は市場が大きい分プレイヤーも多く、国民性や文化も特殊なので、成功するにはどこまでローカライズできるかが肝です。本社の意向が強すぎると、現地の状況とズレている施策をしかねません。外資企業の日本法人であっても、一日本企業として成長させていくことが大事だと思います。
ふたつ目は、日本独自の社内文化を作ること。親会社の掲げる文化ももちろん大事ですが、働く環境や文化が異なるので、それを真似するだけではチームはまとまりません。日本法人が企業として目指すビジョンや行動指針の必要性を感じ、弊社では日本法人独自のVpon JAPAN Wayという行動指針を掲げています。
3つ目は、最低3年掛かると覚悟することです。私がVponの代表であるVictorに一番感謝しているのは、結果が出るのをずっと待ってくれたことです。どんなにグローバル市場の中で知名度が高くて資金力がある会社でも、簡単に事業が安定しないのが日本市場です。
どれだけ多くの投資をしても、事業が浸透しない時は全くしません。売上が安定してチームが拡大するフェーズに入るまでには、最低3年はかかると考えた方が無難です。もし待てないのであれば、日本市場には参入しない方が良いと思います。
――現在社員数が22名とのことですが、採用方針について教えてください。
篠原さん:採用には複数のプロセスがあり、私もその一部を担っているのですが、私が面接時に確認していることは「未来にゴールを置き、今を生きられる人」であるかです。
そのため面接では、過去の仕事や実績はあまり聞かず、履歴書もほとんど見ません。私の興味であり大切にしていることは、自分の未来をどう考えて、そのために今何をしたいのかです。それを自分の言葉で語れる人や、ありたい姿から逆算して生き方を決めている人に魅力を感じます。
なぜなら、Vpon JAPANで働くことは人生のゴールではなく、人生の目標や夢を実現させるための手段にしてほしいからです。Vpon JAPANで働くことが自己実現に少しでも繋がっていれば、働く意義がクリアになり、目の前の問題やストレスも乗り越えられるはず。
ただ、目の前の仕事が忙しくなってくると、仕事の意義を見失いがちです。そうなってくると、つい些細なことが気になって愚痴を言ってしまったりやる気がなくなったりするので、弊社では毎週月曜にゴールを確認する時間を設けるようにしています。
――未来に向けて行動できる人を採用されているのですね。たとえば「社長になりたい」という願望もゴールに含まれるのでしょうか?
篠原さん:人生のゴールは職業ではなく、その職業につくことで周りの環境や世界をどう変えることができるかだと考えています。だから、「世界平和」や「人を元気にする」といった抽象的な表現になります。
職業は人生のゴールを達成した時の自分の状態なので、サブゴールとして設定します。サブゴールには具体的なものをいくつか設定し、それが叶った時にゴールが達成されるという認識です。
――篠原さんご自身のゴールを教えてください。
篠原さん:Vpon JAPANのビジョンである「ニッポンと世界をつなぐ! 日本のヒト・モノ・コトで世界を元気に」が私のゴールです。世界中の訪日観光客に対して日本の情報を発信し、もっと日本の素晴らしさを世界に伝えていきます。
【編集部コメント】
「メンバーには、将来のためにVpon JAPANをステップにして欲しい」と語る篠原さん。この会社には、夢を持ったメンバーが集っています。大きな志と共にメンバーたちと働くことは、きっと刺激的な毎日になるはず。現在、コロナウイルスによってインバウンド業界は大きな打撃を受けていますが、すでに新たな切り口で様々な事業が生まれているそうです。今後も変わらずに訪日旅行客向けのデジタルマーケティング事業の展開に注力していきたいと語られました。
【企業プロフィール】
「ニッポンとセカイをつなぐ」という理念のもと、アジア全域の旅行者データをカバーする訪日インバウンド特化のデータカンパニー。2014年8月に設立され、社員数は現在22名。1億以上のモバイルデバイスのデータを活用して、各地域の観光協会、地方自治体、企業の方々の思い描く自地域への誘客や消費額増加などの解決に向けて旅行者像の可視化や集客プロモーションを実現する。東京、大阪のほか香港、台北、上海、シンガポール、バンコクに拠点を構える。
【篠原 好孝さんプロフィール】
篠原 好孝
Vpon JAPAN株式会社 代表取締役社長
1979年、東京都生まれ。学習院大学経済学部経営学科卒業後、LVMH Louis Vuitton Japanにてセールス&マーケティングに従事。2006年、株式会社Simplenaを創業し、代表取締役就任。業務改善コンサルティング、中小企業向けのWEBマーケティング支援事業を展開する。同時にBecome Japanにて事業開発、InMobi Japanにてスマートフォン広告の事業開発を統括。’14年8月にVpon JAPAN株式会社の立ち上げ代表取締役社長に就任。ビッグデータを駆使したインバウンドデジタルマーケティングソリューションを手掛ける。「日本から世界を幸せにするヒト・モノ・コトを創出しニッポンと世界を繋ぐ」べく、インバウンド領域を中心に事業を展開している。また、目白少年サッカークラブコーチとしても活動している。