日本と台湾の比較から考える、家事・育児分担
日本と台湾の家事・育児・介護の分担率は、伝統と文化、社会の進展によって影響を受けています。日本では、伝統的な性別役割分業が残りつつも、近年では女性の社会進出が進み、男女ともに家庭や職場での負担を抱えることが増えていますが、まだまだ男女の分担に偏りが見られます。 一方で、台湾では女性の社会進出が早かったこともあり、男女間の分担は日本に比べて比較的進んでいます。ただし、台湾でもまだ男性が家庭の負担を十分に分担する文化が定着しているとは言い難い状況です。 今回の記事では、日本と台湾における家事・育児の分担状況をデータを用いて考察していきます。
※以下の記事で利用している日本のデータは、すべて男女共同参画白書(令和5年版)から引用しています。
1,家事・育児の分担について
日本のデータを見ていくと、令和3(2021)年時点で、6歳未満の子どもを持つ妻・夫の家事関連時間の妻の分担割合は、週全体の平均で妻が無業(専業主婦)の場合は9.45時間(84%)、夫は1.8時間(16%)です。女性が男性の5.6倍です。
有業(共働き)であっても、妻が6.5時間(77.4%)、夫は1.9時間(22.6%)という状況です。女性が男性の3.4倍です。たとえ共働きの場合でも、男性の家事関連時間はたったの6.6%しか増えていません。仕事を持っている女性は、専業主婦とほぼ同レベルの割合で家事も担っていることがわかります(特-8図)。
一方台湾では、既婚者であったり同棲者のいる女性の「育児・介護」に使う1日の平均時間は4.41時間ですが、パートナーは平均1.48時間となります。約3倍も女性の方が時間を使っています。
家事については、未婚女性の家事参加率は 85.5%で、1日の家事平均時間は 1.04 時間です。パートナーのいる女性の場合は、家事参加率は 98.6%で、1日の家事平均時間は 2.25 時間となっています(出典:衛生福利部統計処 2019年15-64歳婦女生活状況調査性別分析)。
女性の方が家事育児を担う時間は多いですが、「妻が夫よりも家事に時間を費やすべきだ」と考えている人は19.1%で、80.0%は反対しています。2019年の調査結果と比較すると、反対意見の割合は76.1%から80.0%に増加し、3.9ポイント増加しました(出典:行政院性別平等会 2021性別平等観念電話世論調査)。
2,育児休業の取得率について
育児休暇の取得率は、女性が職場での地位を確立し、家庭とのバランスを取る上での重要な要素です。日本では、育児休暇の制度は整っているにもかかわらず、長時間労働の文化や男性の育児参加の低さが、育休取得率の低さにつながっています。台湾では、政府の支援や企業の努力によって育休取得率が向上していますが、日本と同様にまだ男性の育休取得は限られています。
日本の育児休業取得率の推移を見ると、男性の育児休業取得率はここ数年で上昇しています。令和3(2021)年度の男性の育児休業取得率は、民間企業で13.97%、国家公務員で34.0%、地方公務員で19.5%となりました。しかし、女性の取得率は8割を超えています(民間企業85.1%、国家公務員104.2%、地方公務員100.6%)。
男女の取得率を比較すると、かなり大きな差があるのがわかります(特-18図)。また、「育児休業を取った」と言っても、どれだけの期間を取ったかも重要です。ここにも男女間でのギャップがあります。
令和3(2021)年度の民間企業の男性の育児休業取得期間は、約半数が2週間未満と非常に短く、民間企業の女性は約8割が10か月以上取得しています。
国家公務員の男性は約7割が1ヶ月以下という状況ですが、女性は約8割が9か月を超えています。地方公務員においても、男性の育児休業承認期間は約半数が1か月以下である一方、女性の場合は約9割が9か月を超えています(特-19図)。
男性の育児休業取得率が女性に比べて低い理由についての考え方を見てみると、男女ともに、総じて「男性の方が家計を支える必要があるから」「男性の方が昇進・昇給にマイナスの影響があるから」「男性の方が上司や同僚の支援を受けにくいから」の割合が大きいという結果になりました。
男女間賃金格差や長時間労働等の慣行、性別役割分担等の意識などによって、制度があっても使えていない状況になっていることがデータからはわかります。
台湾の育児休業取得率を見てみると、育休から元の仕事に復帰する率は男性が95.9%、女性が91.1%です。男性の平均育休期間は 6.3 ヶ月。女性は 8.1 ヶ月と、日本と比べて男女ともに一定期間取得していることがわかります。
2009年から2019 年までの間に育児休業給付金を取得した男性は12.2 万人(17.4%)、女性は58.3 万人で(82.6%)となっています。年代別に見ていくと、2019年は、育児休業給付金を取得した79000人中、男性が15000人で、女性が64000人でした(出典:労働部統計処 2019育休復帰に関する調査)。
直近の2022年だと、育児休業給付金を取得した男性は23470人、女性は68592人となり、男女の差が少し縮まっています(出典:育児休業給付金についてのデータ)。
3,まとめ
日本と台湾の家事・育児分担の現状は、伝統や社会の進展によって影響を受けています。日本では、女性の社会進出が進む中でもなお、家事・育児分担に偏りが見られ続けていることがデータから見えてきました。
一方で、台湾は育休取得率の高さから、家事・育児における共同の取り組みが進んでいる兆候が見受けられます。育休取得率を見ると、台湾では男性の育休取得率が高く、女性と男性が平均的な期間を取得する傾向があります。
台湾では女性の社会進出が早かったため、日本よりも女性が働きやすい文化が根づいていると言えるかもしれません。台湾企業はワークライフバランスも重視する働き方をしていることが多いので、子どもを生んでからも働き続けたい女性にとっておすすめです。